高校化学|塩の加水分解と液性の決まり方を完全解説【弱酸・弱塩基の見分け方と具体例付き】

塩の加水分解って何?NaClやCH₃COONa、NH₄Clの液性の決まり方をわかりやすく解説。強酸・強塩基・弱酸・弱塩基の見分け方、具体例、反応式、誤解しやすいポイント

高校化学|塩の加水分解と液性の決まり方を完全解説【弱酸・弱塩基の見分け方と具体例付き】

目次

基本概念

イオンとは

イオン = 電子を得たり失ったりして、電荷(電気の性質)を帯びた粒子(原子または分子)のこと。

  • 正イオン(陽イオン) :電子を失ったもの
    例:ナトリウムイオン (Na⁺)、カルシウムイオン (Ca²⁺)

  • 負イオン(陰イオン) :電子を得たもの
    例:塩化物イオン (Cl⁻)、硫酸イオン (SO₄²⁻)

具体例💡
食塩水の中では、食塩 (NaCl) が Na⁺ と Cl⁻ に分かれてバラバラに漂っています。これがイオンの状態です。

語注📖

  • 電荷 :プラスやマイナスの電気的性質
  • 粒子 :とても小さな物質のかたまり

イオン結晶

正イオンと負イオンが 静電気力 (プラスとマイナスが引き合う力)で規則正しく並んだ固体の結晶構造。

具体例💡
食塩の結晶は、Na⁺ と Cl⁻ がチェスボードのように交互に並んでいます。これがイオン結晶です。

例:NaCl = Na⁺ と Cl⁻ が静電気力で結びついた状態
固体のとき → イオン結晶
水に溶かすと → Na⁺ と Cl⁻ にバラバラに分かれる

塩の種類と加水分解

塩(えん)とは

= 酸と塩基(アルカリ)が 中和反応 (酸と塩基が反応して水と塩ができる反応)して生成される物質。

身近な例💡

  • 食塩 (NaCl) = 塩酸 (HCl) + 水酸化ナトリウム (NaOH) → NaCl + 水
  • 炭酸水素ナトリウム(重曹)(NaHCO₃) = 炭酸 (H₂CO₃) + NaOH → NaHCO₃ + 水
弱酸 + 強塩基 → 塩 + 水
強酸 + 弱塩基 → 塩 + 水
弱酸 + 弱塩基 → 塩 + 水

強酸、弱酸、強塩基、弱塩基の分類

強酸(反応しない)

強酸 = 水の中でほぼ完全に電離(バラバラになる)する酸

  • HCl(塩酸)→ 胃酸の主成分、トイレ洗剤
  • HNO₃(硝酸)→ 金属を溶かす、肥料の原料
  • H₂SO₄(硫酸)→ 車のバッテリー液

弱酸(加水分解する)

弱酸 = 水の中で少ししか電離しない酸

  • C₂H₂O₄(シュウ酸)→ ホウレンソウに含まれる酸
  • CH₃COOH(酢酸)→ お酢の主成分
  • H₂CO₃(炭酸)→ 炭酸飲料の酸っぱさの元

具体例💡
お酢(酢酸)を水で薄めても、すべての酢酸分子が H⁺ を出すわけではありません。一部だけが H⁺ を出して、残りは酢酸分子のまま残ります。これが弱酸です。

強塩基(反応しない)

強塩基 = 水の中でほぼ完全に電離する塩基

  • NaOH(水酸化ナトリウム)→ 石鹸、パイプ洗浄剤
  • KOH(水酸化カリウム)→ アルカリ電池
  • Ba(OH)₂(水酸化バリウム)→ 実験用試薬

弱塩基(加水分解する)

弱塩基 = 水の中で少ししか電離しない塩基

  • NH₃·H₂O(アンモニア水)→ ガラス用洗剤

塩の分類

| 塩の種類 | 組成 | 身近な例 | 液性 | 加水分解 | |---------|------|---------|------|--------| | 強塩基 × 強酸 | Na⁺ + Cl⁻ | 食塩 | 中性 | しない | | 強塩基 × 弱酸 | Na⁺ + CH₃COO⁻ | 酢酸ナトリウム(食品添加物) | 塩基性 | する | | 弱塩基 × 強酸 | NH₄⁺ + Cl⁻ | 塩化アンモニウム(乾電池) | 酸性 | する | | 弱塩基 × 弱酸 | NH₄⁺ + CH₃COO⁻ | 酢酸アンモニウム | 複雑 | 両方 |

語注📖

  • 液性 :酸性・中性・塩基性(アルカリ性)のこと
  • pH(ピーエイチ、ペーハー) :液性の強さを表す数値(7が中性、7より小さいと酸性、大きいと塩基性)

加水分解の仕組み

「引き合う」ことと「化学反応する」ことの違い

磁石のように引き合っても、くっついて別の物質になるかは別問題です🧲

🔸 H⁺ と C₂O₄²⁻ の場合(反応する)

C₂O₄²⁻ + H⁺ → HC₂O₄⁻
✅ 正負で引き合う
✅ 化学的に反応する
✅ 新しい分子ができる

例え話💡
両手を広げて求め合っている2人が、しっかり手をつないで1組のカップルになるイメージ。

🔸 Na⁺ と OH⁻ の場合(反応しない)

Na⁺ ⇄ OH⁻(ただし反応しない)
✅ 正負で引き合う
❌ 化学的には反応しない
➡️ 近くにいるけど別々のまま

例え話💡
満員電車で隣同士になった2人。お互い意識はしているけど、特に話しかけることもなく別々のまま。


なぜ両者が違うのか

安定性と相性の違い

H⁺ × C₂O₄²⁻:相性◎

  • H⁺ は不安定で何かにくっつきたい(1人でいられない)
  • C₂O₄²⁻ は弱酸由来で H⁺ を求めている(パートナーが欲しい)
  • → 強く反応して新しい分子ができる

具体例💡
ホウレンソウのアクの元であるシュウ酸イオン (C₂O₄²⁻) は、水の中の H⁺ を奪って HC₂O₄⁻ という分子になります。

Na⁺ × OH⁻:相性△

  • Na⁺ は強塩基由来で非常に安定(既に満足している)
  • OH⁻ も安定している
  • → 引き付け合うが化学結合までは作らない

具体例💡
食塩水の中の Na⁺ と、アルカリ性洗剤の OH⁻ は、お互い近くにいるけど、NaOH という固まりにはなりません。


加水分解の本質

加水分解とは

加水分解 = 弱酸や弱塩基から生まれたイオンが、水と反応して元の弱酸・弱塩基の分子を作り、溶液の pH(酸性・塩基性の度合い)が変わる反応。

語注📖

  • 加水 :水が加わること
  • 分解 :ここでは「水の成分が分かれること」を意味します

加水分解の3ステップ

ステップ1:水の電離

水は常にほんの少しだけ分かれています(電離)。

H₂O ⇄ H⁺ + OH⁻

具体例💡
純水でも、1億個の水分子のうち約1個だけが H⁺ と OH⁻ に分かれています。

ステップ2:弱酸イオンが H⁺ を奪う

弱酸由来のイオンは「元に戻りたい」性質があるので、H⁺ を奪います。

C₂O₄²⁻ + H⁺ → HC₂O₄⁻

具体例💡
炭酸飲料の中の炭酸イオン (CO₃²⁻) は、H⁺ を奪って炭酸 (H₂CO₃) に戻ろうとします。これが炭酸の「抜け」です。

ステップ3:結果として OH⁻ が増加

H⁺ が減る → 相対的に OH⁻ が増える → 溶液が塩基性に

例え話💡
教室に男子10人・女子10人いました(中性)。
男子5人が外に出ると(H⁺が減る)、教室は女子の方が多くなります(塩基性)。


具体例:シュウ酸ナトリウム (Na₂C₂O₄) の加水分解

日常での使用💡
シュウ酸ナトリウムは、染色や医薬品の材料として使われます。

完全版(傍観者を含む)

2Na⁺ + C₂O₄²⁻ + H₂O ⇄ 2Na⁺ + HC₂O₄⁻ + OH⁻

語注📖

  • 傍観者イオン :反応に参加しないで見ているだけのイオン(ここでは Na⁺)

イオン方程式版(Na⁺を除く)

C₂O₄²⁻ + H₂O ⇄ HC₂O₄⁻ + OH⁻

結果:液性は塩基性(OH⁻ が生成されるため)


液性判定フローチャート

【塩の組成を確認】
  ↓
【陽イオンが何由来か?】
├─ 強塩基由来(Na⁺, K⁺, Ba²⁺など)
│  └─ 反応しない(傍観者)
└─ 弱塩基由来(NH₄⁺など)
   └─ 加水分解する(酸性に傾く)

【陰イオンが何由来か?】
├─ 強酸由来(Cl⁻, NO₃⁻など)
│  └─ 反応しない(傍観者)
└─ 弱酸由来(CH₃COO⁻, C₂O₄²⁻など)
   └─ 加水分解する(塩基性に傾く)

【液性を判定】
├─ 両方反応しない → 中性(例:食塩)
├─ 陰イオンだけ加水分解 → 塩基性(例:重曹)
├─ 陽イオンだけ加水分解 → 酸性(例:塩化アンモニウム)
└─ 両方加水分解 → 比較が必要

実践例

例1:塩化ナトリウム (NaCl) - 中性 🧂

身近な物質💡 :食塩

分析

NaCl + H₂O → Na⁺ + Cl⁻ + H₂O

  • Na⁺ :強塩基(NaOH)由来 → 反応しない
  • Cl⁻ :強酸(HCl)由来 → 反応しない

結論

両方とも反応しないので、水は普通に電離するだけ。
H₂O ⇄ H⁺ + OH⁻
H⁺ と OH⁻ が同量 → 中性

だから💡 :食塩水は酸っぱくもアルカリっぽくもありません。


例2:酢酸ナトリウム (CH₃COONa) - 塩基性 🧪

身近な物質💡 :ポテトチップスの調味料、食品添加物

分析

CH₃COONa + H₂O → Na⁺ + CH₃COO⁻ + H₂O

  • Na⁺ :強塩基由来 → 反応しない(傍観者)
  • CH₃COO⁻ :弱酸(酢酸)由来 → 加水分解する

加水分解反応

CH₃COO⁻ + H₂O ⇄ CH₃COOH + OH⁻

OH⁻ が生成 → 塩基性

だから💡 :酢酸ナトリウムの水溶液は少しアルカリ性です。


例3:酢酸バリウム (Ba(CH₃COO)₂) - 塩基性 🧪

使用例💡 :染料の製造、木材の防腐剤

分析

Ba(CH₃COO)₂ + 2H₂O → Ba²⁺ + 2CH₃COO⁻ + 2H₂O

  • Ba²⁺ :強塩基(Ba(OH)₂)由来 → 反応しない
  • CH₃COO⁻(2個) :弱酸由来 → 両方加水分解

加水分解反応

2CH₃COO⁻ + 2H₂O ⇄ 2CH₃COOH + 2OH⁻

2個の OH⁻ が生成 → 塩基性


例4:塩化アンモニウム (NH₄Cl) - 酸性 🔋

身近な物質💡 :乾電池の電解液、肥料

分析

NH₄Cl + H₂O → NH₄⁺ + Cl⁻ + H₂O

  • NH₄⁺ :弱塩基(NH₃)由来 → 加水分解する
  • Cl⁻ :強酸由来 → 反応しない

加水分解反応

NH₄⁺ ⇄ NH₃ + H⁺

H⁺ が生成 → 酸性

だから💡 :塩化アンモニウムの水溶液は少し酸っぱいです。


よくある誤解

誤解1:「プラスとマイナスは必ず反応する」

❌ 間違い
⭕ 正しくは「引き合うが、反応するとは限らない」

例💡

  • 食塩水の Na⁺ と OH⁻ → 引き合うが反応しない
  • お酢の H⁺ と炭酸イオン → 引き合って反応する

誤解2:「強酸・強塩基由来のイオンは絶対に反応しない」

❌ 間違い
⭕ 正しくは「水のような弱い相手とは反応しない」

補足💡
Cl⁻ も、もっと強い酸化剤(例:塩素ガス)とは反応する場合があります。


誤解3:「加水分解は完全に進む」

❌ 間違い
⭕ 正しくは「可逆反応なので平衡状態になる」

CH₃COO⁻ + H₂O ⇄ CH₃COOH + OH⁻

矢印が両方向(⇄)なので、途中で止まります。

具体例💡
炭酸飲料のフタを開けると、炭酸ガス (CO₂) が抜けていきますが、全部は抜けません。途中で平衡になります。


誤解4:「イオンが2個あれば2倍反応する」

⚠️ 注意が必要

Ba(CH₃COO)₂ のように CH₃COO⁻ が2個ある場合:

  • 理論上は両方加水分解
  • 実際には反応の進み具合は限定的
  • 高校化学では「完全に進む」と仮定することが多い

重要なポイントまとめ ✨

💡 加水分解の本質

  1. 弱酸または弱塩基由来のイオン が水と反応
  2. 強酸・強塩基由来のイオン は傍観者(何もしない)
  3. OH⁻ または H⁺ が増減 して液性が変わる

🎯 液性判定の流れ

1. 塩をイオンに分解
2. 各イオンの「出身」を確認(強酸?弱酸?強塩基?弱塩基?)
3. 傍観者を特定
4. 加水分解するイオンの反応式を書く
5. OH⁻ 増 → 塩基性 / H⁺ 増 → 酸性

✅ 化学式を書くときの注意

  • 電荷のバランス :Ba²⁺ と書く(Ba⁺ ではない)
  • 原子数を合わせる :左辺と右辺で同じ数に
  • 矢印の種類 :可逆反応は ⇄、一方向反応は →

練習問題 📝

問1:炭酸ナトリウム (Na₂CO₃) の加水分解

重曹(炭酸水素ナトリウム NaHCO₃)の仲間である炭酸ナトリウムの水溶液が塩基性になる理由を説明してください。

ヒント💡

  • 炭酸 (H₂CO₃) は弱酸
  • Na⁺ は強塩基由来、CO₃²⁻ は弱酸由来

答え👇
CO₃²⁻ + H₂O ⇄ HCO₃⁻ + OH⁻
OH⁻ が生成されるため塩基性


問2:混合溶液の液性

NH₄Cl(酸性)と CH₃COONa(塩基性)を混ぜた場合、液性はどうなる?

考え方💡

  • NH₄⁺(弱塩基由来)→ 酸性に傾ける
  • CH₃COO⁻(弱酸由来)→ 塩基性に傾ける
  • どちらが強いか比較が必要

実際には📖
酢酸 (CH₃COOH) とアンモニア (NH₃) の電離定数を比較して判定します(高度な内容)。

投稿日: 2025年11月9日

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